アメリカ合衆国国立公園制度100周年記念に寄せて

愛する家族を亡くしたルーズベルト大統領とジョン・ミューアの出会い

1903年、セオドア・ルーズベルト大統領は、ヨセミテ渓谷にナチュラリストで「自然保護の父」と言われたジョン・ミューアを訪ねました。彼らはそこでキャンプを張り3日間にわたって語り合いました。ミューアはヨセミテ渓谷を愛していましたが、開発事業者によって破壊されていくことを止められませんでした。ルーズベルトは25歳の時に母と妻を病気で同時に亡くし、その深い悲しみから救ってくれた自然の力を決して忘れませんでした。
誰のものでもなく誰もが楽しめる公園。だからこそ責任を持って守らなければならない。
自然に対する思いを同じくするふたりは地球上のどこよりも早く国立公園制度の基礎を築きました。このキャンプ旅行が、アメリカを変えたのです。

1916年に自然保護とそれを未来に引き継ぐことを目的とした公園を管理、運営する国立公園局が連邦政府内務省に設立されてから100年が経ちました。ルーズベルトとミューア、人と自然のあり方についてのふたりの思想はこれからますます必要とされるでしょう。

誰の内にも自然への愛が存在する…自然のハートに近づいてごらんなさい。
ジョン・ミューア

我々を偉大な国民にならしめるのは、何を所有しているかではない。
所有しているものを我々がどのように用いるかである。
セオドア・ルーズベルト

すべての国民のため〜民主主義的アイディア、国立公園制度について

これはアメリカの国立公園や歴史公園など、410カ所の公園ユニットをもつアメリカの真の国立公園制度創設100周年を記念して製作された映画です。
世界で最初に誕生した国立公園はアメリカのイエローストーン国立公園で、1872年3月1日に設立されました。この国立公園の誕生は、ウオッシュボーン=ラングフォード=ドーン探検隊が1870年9月19日のキャンプファイアーを囲んでの夜に、探検隊の一員で若き弁護士だったコーネリアス・ヘッジスが「この素晴らしいイエローストーン地域を探検隊の仲間で分割所有するのではなく、全国民が永遠に利用できる国家の保留地として確保されるべきである」と主張したからだと言われています。その後、イエローストーンについての記事が隊員達によって紹介されましたが、中でも、ナザニエル・ラングフォードがトーマス・モランの版画とともに「イエローストーンの驚異」と題する記事をスクリブナー誌に発表してイエローストーン探検の物語が全米の話題となったのです。その後、1903年には、セオドア・ルーズベルトがジョン・ミューアとヨセミテの3日間を過ごし、自然保護について語り合ったことがきっかけで、今につながる国立公園の理念を確立していき、国立公園が次々につくられていきました。そしてついには(ルーズベルト大統領が任期を終えた7年後の)1916年に内務省に国立公園局が設置され、本格的な制度確立へと成長していくこととなったのです。

この国立公園は、手付かずの広大な自然を連邦政府が「公園」として管理し、人々のレジャー、レクリエーションに供するという「新しい形態の公園」として注目を浴びました。なぜなら、これまで、公園(パーク)というのは王族、貴族、特権階級の所有地として位置付けられていたものを、「すべての国民のため」という民主主義的なアイディアとしてその制度を発足させたからです。その後、21世紀の今日までに世界で様々な形の国立公園制度がつくられ、現在ではその国と地域は200近い数にのぼり、国立公園数もおそらく3,000カ所以上になっているものと思われます。
この国立公園制度は、それぞれの国が設置する過程において、様々な管理形態を生んできましたが、大きく分けてアメリカのように土地を国立公園専用で利用できる国立公園と、日本のように公園内で農林業や人々の居住が認められる国立公園の2つのタイプがあります。アメリカの国立公園は、広大な自然を連邦政府が自然生態系の保護とレクリエーション専用で心おきなく管理をすることができますが、日本の国立公園は、人の手が加わった里地里山のような半自然の風景も多く含まれます。したがって、この映画で映像で見るアメリカの国立公園は日本ではほとんど見ることのできないたくさんの原生自然地域が紹介されています。

この映画を見ると、まずは画面いっぱいに映し出されるアメリカの大風景が圧倒的な存在で迫ってきます。大自然の中に米粒のように映し出される登場人物の存在は、アメリカの国立公園のスケールの大きさを物語っています。また、とてつもない程の長い時間をかけ、度重なる地殻変動によりつくられた風景の色と形は、繊細さと精巧さをもって作られた宇宙の芸術作品のようです。人類が現れるはるか以前から、気の遠くなるような時間をかけて作りだされてきたアメリカの国立公園の大自然とそこに住む動物たちの営みは、「人間よ、奢るなかれ!」というメッセージも伝えているようで、おのずと大自然の前にひれ伏し膝まづきたくなるほどです。
アメリカの自然保護の父と呼ばれるジョン・ミューアは、「尊敬されるのは自然にではなく、自然のうちからあふれ出る力に対してである。」といっているように、現代の文明に疲れた人間にとって国立公園は心をリフレッシュさせる効用があります。アメリカのイエローストーンやグランドキャニオンの前に立つと人は謙虚になれます。壮大なスケールの大自然を目の当たりにして、我々は気負うことなく心を素直に開くことができるのです。そして、さらにインスピレーショナルなひらめきと創造性さえも実感することができるのです。
かつてのアメリカ合衆国の大統領、ビル・クリントンは「国立公園はアメリカ合衆国の誇りである。アメリカ合衆国が存在する限り、国立公園制度もその遺産とともにアメリカ合衆国民のために存在するだろう」と述べています。それほどの価値ある国立公園の景観を皆さんは映像を通してご覧になってみませんか?
親泊素子(江戸川大学国立公園研究所所長)